鳥インフルエンザの脅威

今年になって鳥インフルエンザが各地で発生している。養鶏業にとっては深刻な問題であるばかりか、いつぞやヒトにも感染力のある変異ウイルスが出現するやも知れないことにも不安がある。鶏肉や鶏卵の生産は、ほぼ極限ともいえる飼育方式が確立され、この半世紀、安価で栄養価の高い食品として大きな貢献をしてきた。私が小学生であった昭和三十年前後まで、卵や鶏肉は貴重品であり、庭先に鶏を飼っていた農家ですら、めったに口にすることはできなかった。十数羽ほど飼っていたわが家でも、小さ過ぎる卵や卵殻の無い卵などは当然売りにだすことが出来なかったので、そんな卵を産むのを待っていたものだった。以後、高度経済成長期から現在に至るまで、品種改良や極端に飼育効率を追求した飼育方式により常に物価の優等生と呼ばれてきた。それは年間、300個以上の卵を産み、食べた餌の半分を肉に作りかえる能力によるが、その裏ではおよそ本来の鶏の営みとは縁遠い人間による人間のための生産管理が徹底されてきたことは云うまでもない。無窓鶏舎や6段も積み上げた狭いケージで、殆ど1ヶ所で数万羽以上も飼われている。無論、鳥インフルエンザが野鳥介して伝搬されるならば、ネズミ一匹入れない完全密閉の鶏舎が求められるのだが、ウイルス故、完全に侵入を防ぐことは容易なことではない。またいったん侵入すれば何万羽も飼育しているすべてを処分しなければならない。勿論、名案などありはしないが、少しこのあたりで家禽や家畜の飼育方法や畜産食品の生産や流通、飼料について、世界の規模で今一度考えることが大切である。